【時を超えた少女】
その懐中時計は、祖母の家の蔵で見つけた。
古びていたけれど、文字盤のガラスはひび一つなく、針も止まっていなかった。私は何気なく、側面のネジを巻いてみた。
——カチリ。
その瞬間、世界がねじれるように歪んだ。
足元がふわりと浮いた気がして、次の瞬間、私は知らない場所に立っていた。
「……え?」
そこは、見慣れたはずの祖母の家の庭……のようで、どこか違う。家の造りは同じなのに、塀が古く、庭の木々は妙に小さい。
家の中を覗くと、そこには——私がいた。
いや、私じゃない。よく似た少女だった。顔も背丈もほとんど同じ。でも、彼女は明らかに昭和の時代の服を着ていた。
「……誰?」
思わず声をかけると、少女がこちらを見た。
「あなたこそ、誰?」
ぞくりと背筋が寒くなった。私に似たその少女の目が、まるで私を見透かすように光る。
「ねえ、あなた……私の代わりに、ここにいてくれない?」
その言葉とともに、懐中時計がふいに熱を帯びた。
次の瞬間——私の意識は、深い闇に沈んでいった。
目を覚ますと、私は古びた鏡の前に立っていた。
「……あれ?」
反射する自分の姿を見て、息が止まる。
私は、昭和の服を着ていた。
急いで家の中を駆け回る。祖母の家は、やっぱりどこか違っていた。家具も古いし、見覚えのない人たちがいる。
「お姉ちゃん、何してるの?」
不意に、足元から小さな声がした。
振り返ると、見知らぬ少年が私を見上げている。
「……誰?」
「なに言ってるの、お姉ちゃん。早くご飯食べようよ」
少年はにっこり笑う。
背中に嫌な汗が流れた。そんな弟、私にはいない。
——この世界に、私は閉じ込められた?
混乱する私の手元で、懐中時計が静かに時を刻んでいた。
「カチ……カチ……カチ……」
けれど、文字盤の針は、逆方向にゆっくりと回り始めていた——。
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