「おめでとうございます。あなたは遠縁の親族から10億円の遺産を相続することになりました。」
ある日、田中一郎(仮名)のもとに、突然弁護士事務所から連絡が入った。全く身に覚えのない親族の遺産。冗談か詐欺かと思いながらも、詳しく話を聞いてみることにした。
弁護士によると、遺産を遺したのは「田中三郎」という人物。一郎の曾祖父の弟にあたるらしい。三郎は戦後すぐに海外へ渡り、現地で大成功を収め、莫大な財産を築いた。しかし彼には子どもがおらず、数年前にひっそりと亡くなったという。
「相続人としてあなたの名前が遺言書に記されています。」
そう言われても、田中一郎には全く実感が湧かなかった。だが、正式な書類がそろっている以上、少なくとも詐欺ではなさそうだった。手続きは驚くほどスムーズに進み、数か月後には実際に10億円が彼の銀行口座に振り込まれた。
夢のような話だった。
だが、それから数週間後、一郎のもとに見知らぬ男が訪ねてきた。スーツを着た初老の男は、冷たい視線でこう言った。
「その金は、もともと俺たちのものだったんだ。」
男の名は佐藤誠。彼の話によると、三郎が築いた財産の元手は、戦後に不正に手に入れたものだったらしい。戦争で行方不明になった人々の資産を巧妙に横取りし、それを元手にビジネスを展開したという。
「俺の祖父は、お前の曾祖父の親友だった。でも、戦後の混乱で財産を奪われ、一家は没落した。お前の親族は、その金の上に立っていたんだ。」
一郎は凍りついた。思いもよらない事実を突きつけられ、10億円が途端に重く感じられた。
「その金、本当に自分のものだと思うか?」
一郎は答えられなかった。だが、遺産の出所を調べるうちに、さらに恐ろしい事実が浮かび上がった。三郎は、遺産を相続する者が真相を知った時にどうするかまで見越していた。
遺言の最後に、こう書かれていたのだ。
**『この金を受け取る者へ。過去に向き合う覚悟はあるか?』**
一郎は悩んだ。だが、自分の中で答えは決まっていた。この金を自分のものにするわけにはいかない。
彼は記者会見を開き、遺産の真相を公表した。そして、すべての財産を戦後に被害を受けた遺族や慈善団体に寄付することを発表した。
「私はこの遺産を放棄します。この財産が生まれた経緯を知り、受け取る資格がないと感じました。未来のために、正しい使い方をしたいのです。」
記者たちは騒然とした。一郎の決断は大きな話題を呼び、日本中に報道された。
そして、遺産を失ったはずの佐藤誠は、静かに頷いた。
「ようやく、祖父も報われるかもしれないな…」
一郎はその後、何も持たずにゼロからやり直すことを決意した。だが、彼の心はどこか軽かった。
過去に向き合う覚悟。それは、自分がどう生きるかを決めることでもあった。
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