冷蔵庫を開けると、おじさんがいた。
知らないおじさんだ。
スーツを着て、膝を抱えている。寒くないのか、顔色は妙に良い。
「お、おじさん……?」
「おう」
おじさんは当然のように頷く。
え、何? え? なんで?
そう思ったが、なぜか扉を閉めた。
そして深呼吸して、もう一度開けた。
おじさんはいた。
「……何してるんですか?」
「まぁ、冷えてる」
「いや、知ってますけど……」
「お前んちの冷蔵庫、居心地いいな」
「勝手に評価しないでください!」
混乱しつつ、よく見ると、おじさんは卵の隣に座っている。ヨーグルトと並んで、妙にしっくりきていた。
「ていうか、どうやって入ったんですか?」
「開いたから入った」
「ドアですか? それとも運命の話ですか?」
おじさんは答えない。ただ、ちょっと体勢を変えた。狭い冷蔵庫の中で、無理やり体育座りをキープしているのがわかる。
「じゃあ、帰ってもらえます?」
「いや、冷やさないと」
「何を?」
「俺を」
会話が成立しているようでしていない。
おじさんはとても満足げだ。
とりあえず扉を閉めて、キッチンの椅子に座る。
……どうしよう。
警察を呼ぶ? いや、通報したところでなんて説明すればいい?
「冷蔵庫におじさんがいるんです!」
ヤバいやつだと思われるに決まってる。
とりあえず、もう一回開ける。
おじさんはいる。
「……何か食べます?」
「あー、そうだな……ヨーグルト」
「勝手に住みついた上に選ぶんですか?」
「カルシウム取らないと」
……もういい。
ヨーグルトを取り出して、スプーンを渡した。
おじさんは冷蔵庫の中で器用に食べ始める。
俺は何をしているんだろう。
なぜ、こんなにも当たり前のように、おじさんと冷蔵庫を共有しているのだろう。
でも、ふと気づく。
おじさん、めちゃくちゃ美味しそうに食べてる。
なんだろう、この安心感。
もしかして、これが本来の冷蔵庫の使い方なのでは……?
そんなことを考えながら、俺はおじさんの横にペットボトルを差し込んだ。
「狭くなるなぁ」
「おじさんのせいですよね?」
……まぁ、いっか。
冷蔵庫の中は今日も快適そうだった。
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