「この時期、女一人で温泉なんて珍しいですねえ」
フロントの老婆は、私の予約を確かめながらそう言った。
会社を辞めたばかりで、少し一人になりたかった。
紹介サイトで見つけたこの宿は、山奥にひっそり建っていて、口コミも少ない。
その“曖昧さ”が、逆に心を引いた。
案内された部屋は、畳の匂いが鼻に心地よい古い和室。
そして、部屋の奥には――\*\*「源泉かけ流しの内湯」\*\*があった。
誰にも邪魔されない静かな湯。
私はすぐに服を脱ぎ、乳白色の湯へと身体を沈めた。
はぁ…気持ちいい……
湯の温かさが、じんわりと奥まで沁みてくる。
でも、不思議だったのは――
**誰かに見られているような気配**がしたこと。
「……誰か、いるの?」
湯気の向こう、壁のすき間に、影のようなものが揺れた。
でも、そのときはまだ、本気で怖がってはいなかった。
むしろ、身体が妙に火照っていて……
湯の中で、自分の脚をなぞる手が、どこか、**他人のように感じた**。
気づけば、私はうっすらと声を漏らしていた。
胸の先がピリッと反応し、湯に浮かんで揺れていた。
まるで――**見えない誰かに触れられているみたいに。**
「……誰……?」
そのとき、耳元で、息を吹きかけるような声がした。
**「私も、女だったのよ……」**
はっとして振り返ると、湯の端に、髪の長い女が膝を抱えて座っていた。
全裸で、濡れた髪が胸元に張りつき、笑っていた。
「あなたみたいに、一人で来たの。寂しくて、熱くて……ねえ、わかるでしょう?」
私は、声を出せなかった。
動けない。いや、動きたくなかった。
女は、湯の中をすべるように近づいてきて、
私の脚に手を這わせながら、こう囁いた。
**「ねえ、あなたも、ここに残らない?」**
気がついたとき、私は部屋の布団に寝ていた。
全身汗でびっしょりだったけど、なぜか、温泉に入った記憶だけが曖昧だった。
あれは夢?――そう思いたかった。
でも、ふと視線を落とすと、浴衣の合わせ目から見えた胸元に、
**女のものとしか思えない、長い髪の毛が一本、張りついていた。**
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