登場人物
健一(夫、42歳、IT系企業勤務。帰宅が遅く、仕事優先の生活)
美咲(妻、40歳、専業主婦。中学生の娘がいる)
舞台
平日の夜10時。
リビング。
健一が帰宅直後、美咲はテーブルの上に夕食をラップしたまま置いている。テレビはついていない。部屋には静かな緊張感。
美咲(台所に立ったまま、冷たい声で)
「おかえり。…遅かったね。今日も“急な会議”?」
健一(ネクタイをゆるめながら)
「そうだよ。なんだよ、その言い方。」
美咲(声を荒げて)
「毎日同じ言い訳ばっかり。もう“急”でもなんでもないじゃない!いつも私と娘が寝る頃にしか帰ってこないくせに!」
健一(むっとして、上着を脱ぎながら)
「仕事してるんだよ、家族のために。こっちだって疲れてんだ。」
美咲(テーブルの椅子を乱暴に引いて)
「私だって家のこと全部やってる!娘の塾の送迎、学校の対応、近所づきあい…あなたは家族の“外注先”みたいな顔して、なーんにも知らないじゃない!」
健一(声を上げて)
「そんな言い方ないだろ!俺がいなきゃ生活回らないのは事実だろ?じゃあ働きに出てみろよ、外の大変さがわかるから!」
美咲(目を見開いて)
「じゃあ代わってよ!こっちは“24時間勤務”なんだよ!休憩もない、感謝もない、たまに帰ってきたと思ったらスマホ見てるか寝てるだけの夫のどこに“支えられてる”って思えっていうの!?」
健一(唇を噛んで、しばらく黙ったあと)
「…そうか。そんな風に思ってたんだな。」
美咲(涙ぐみながら)
「思ってたよ、ずっと。言っても変わらないから言わなかった。でももう限界…私、あなたに家族として向き合ってほしいだけなの。」
健一(沈黙のまま、ラップを外して冷めたごはんを見る)
「……ごめん。」
美咲(涙をぬぐいながら)
「……冷めてても、まだ食べられるから。」
健一(うなずきながら)
「ありがとう。…食べ終わったら、ちょっと話そうか。ちゃんと。」
解説
このシーンでは、感情のすれ違いが限界に達して爆発する様子を描いています。
健一は「家族のために働いている」という正論の裏に、無関心や思いやりの欠如があり、美咲は「家を守っている自分が孤立している」ことへの怒りを抑えてきた末の爆発です。
どちらも“悪者”ではなく、それぞれが疲れ、分かってほしかっただけなのです。
最後に健一が少し歩み寄ろうとする描写を入れることで、わずかな希望とリアリティを残しました。
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