ある夜、僕はいつもより遅くまで起きてて居間でテレビを見てたんだ。両親はもう寝てて、家の中は静かだった。ふと、母親の声が階段の方から聞こえてきた気がしたんだ。名前を呼ばれるっていうか、「こっちに来なさい」みたいな、低いけどはっきりした声だった。普段ならすぐに飛んでいくんだけど、その声にはなんだか不思議な感じがして、少し怖かった。
それでも「お母さんが病気にでもなったのかな?」って思って、腰を上げたんだ。階段を登るたびに、冷たい風が体に吹きかかるような錯覚を覚えた。でも足は止まらず、お母さんの寝室のドアの前まで来ちゃった。ドアを開けると信じられないものが見えたんだ。
母は深い眠りについていて、部屋には誰もいない。あの声の正体はわからないまま、背筋が凍る思いでドアを閉めようとした瞬間だった。また、あの声が聞こえてきたんだ。でも今回は、まるで僕の耳元で囁いているみたいに、「こっちに来なさい」って。背後には何もなかったはずの空間に、かすかに人影が動いたような気がして、僕は無意識に扉をバタンと閉めて、自分の部屋に逃げ戻ったんだ。
夜が明けるまで、僕は布団の中で震えてた。それ以来、夜に声が聞こえても絶対に確認しに行かないって決めたんだ。でもその声、たまにまだ聞こえるんだ。「こっちに来なさい」って。最初は夢か何かだと思って無視しようとしたんだけど、毎晩その声がはっきり聞こえてくるようになって、どうにも落ち着かなくなったんだ。その声は母親の声に似ていて、それが余計に僕の中で混乱を引き起こした。
ある晩、思い切って録音機を持ち出して声を記録しようと決めたんだ。でも不思議なことに、その夜は何の声も聞こえなくて、ただ静寂だけが家を包んでいた。でも次の日、母がふとこう呟いたんだ。「気のせいかしら、夜中に誰かが私を呼んでるような気がするの」って。背筋が凍ったよ。僕だけじゃなく、母も同じ声を聞いてたんだ。しかもその後、子ども部屋の壁に何かが書かれているのを見つけた。「こっちに来なさい」と、薄いチョークで書かれたそれは、どこか懐かしい字体で、どうやってそこに書かれたのか全く分からなかった…。
そのまま急いで消してしまったけど、心には不安が残ったまま。何かがおかしい。あの声は一体何なのか、その正体を突き止めなければならないと思った。でも、一歩踏み出す勇気が出ないんだ。結局、そのまま日々が過ぎていった。あの声は頻繁には聞こえなくなったけど、油断すると突然耳元で囁かれるんだ。「こっちに来なさい」ってね。ある日、友達に冗談半分でその話をしたら、これは家に何かの霊が取り憑いているんじゃないかって言われたんだ。
それからは家に入るのも嫌になって。母と相談して、家を浄化するのも一つの手だと言うんだけど、何となく恐ろしい結論に達しかねない気がして、どうにも決心がつかない。あの声が僕を呼んでいる理由がわかる日が来るのか、それともこのまま得体の知れない何かに囚われ続けるのか、考えるたびに背筋が冷たくなる。
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