暗い宇宙の片隅で、ウルトラの母は一人、深く息をついた。彼女の心はいつも平静を保っていたが、今夜だけは違った。無限の宇宙にひっそりと潜む、黒き破壊者の存在が彼女の中に不安の種を蒔いていた。
「…どうして、こんなにも恐れているのかしら?」
彼女はそっと、自分に問いかける。ずっと戦い続けてきた、数多くの怪獣や敵を倒してきたにも関わらず、この黒き破壊者に対する胸の奥の重苦しい感覚は消えなかった。目を閉じると、その巨大な影が彼女の心に忍び寄ってくる。
「もし…もし負けたら、どうなるんだろう。ウルトラの母としての誇りが…いや、それだけじゃない。私の存在自体が、この宇宙の守護者としての役割が終わる…」
彼女は、静かに目を開け、広がる星空を見つめる。その中に、いつもの安心感はなかった。彼女の頭に浮かんだのは、今まで守ってきた幾千もの生命たち、そして息子であるウルトラマンの顔だった。
「母さん、大丈夫だよ。君ならできるさ」
かつて、ウルトラマンがそう言ってくれた日があった。だが今、その言葉すらも遠く感じる。彼女の内なる戦士の心が揺らいでいた。
「これが、私の欲望なのかしら…勝ち続けることへの恐怖?それとも、敗北した自分を見ることへの拒絶…?」
宇宙に漂う静寂の中、彼女は自分自身と向き合った。心の奥深くで求めるものがある。強さではない。勝利でもない。彼女が本当に欲しているものは…
「安らぎ…」
その一言が、彼女の唇からこぼれた。ずっと戦い続けてきた彼女の心は、静かに休息を求めていた。ウルトラの母として、銀河の守護者として背負ってきた責任は大きかった。だが、それを終わらせることができたなら…その瞬間、彼女は初めて弱さを感じた。
「戦わない未来…」
しかし、それは許されない夢だとすぐに理解する。黒き破壊者は容赦なく近づいていた。全てを破壊し、闇に還そうとする存在。それを阻止するのは、彼女以外にはいない。
「もう、逃げられないのよね…」
彼女は自分に言い聞かせるように、そう呟いた。目の前に広がる宇宙の闇が、まるで彼女を飲み込もうと迫ってくるかのように感じられた。
その時、不意に声が聞こえた。
「母さん、君は一人じゃない」
振り返ると、そこにはウルトラマンがいた。彼の優しい眼差しに、彼女は少しだけ微笑んだ。心の中に渦巻く不安が、少しずつ和らいでいく。
「ありがとう、でも…これは私がやらなければならない戦いよ。母として…宇宙の守護者として」
「わかってる。でも、僕たち家族はいつだって君のそばにいる」
その言葉に、彼女は再び胸を張る。そして、黒き破壊者との決戦の時が迫っていることを感じた。彼女の目の前に、巨大な影がゆっくりと姿を現し始める。
宇宙空間の中、黒き破壊者の目が彼女を見据えていた。その目は、深い憎悪と破壊の欲望に満ちていた。
「来たわね…」
ウルトラの母は、その怪物の存在を前にしても、恐れはなかった。彼女の心にある安らぎの欲望は、それでも戦わなければならないという現実の前で消えていった。
「あなたを止める。私が、全てを守るために」
黒き破壊者は吠えた。その声は、宇宙そのものを揺るがすかのような轟音となり、ウルトラの母の体を包んだ。しかし、彼女は動じなかった。光を纏った彼女の手が、力強く前へと伸ばされる。
「これが、私の戦いよ…」
戦いの火蓋が切られた。黒き破壊者の巨大な腕が彼女に向かって振り下ろされる。しかし、彼女はそれを素早くかわし、光のエネルギーを放つ。宇宙を照らす閃光が、二人の間を走った。
「終わりにしましょう、これ以上の破壊は許されない」
彼女の声は静かだったが、その中には揺るぎない決意が込められていた。黒き破壊者は、再び彼女に襲いかかるが、彼女は冷静にその動きを見極め、反撃の光を放つ。何度も、何度も、激しい攻防が繰り広げられた。
そして、ついに…
「これで終わりよ…!」
ウルトラの母は、全身の力を込めて最後の一撃を放った。彼女の光が黒き破壊者を包み込み、宇宙に響き渡る爆発音と共に、その姿は消え去った。
戦いが終わり、静寂が戻った宇宙で、彼女は静かに息をついた。
「また一つ、守ることができたわね…」
彼女の心には、まだ安らぎは訪れなかった。だが、いつかそれが訪れることを信じて、彼女は再び銀河の守護者として立ち上がるのであった。
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